「なんじゃい、猫か。」と老人は少しがっかりとした口調で呟いた。意外にも猫の鳴き声で誤魔化せたことに驚きながらもすごくほっとした。
そうこうしていると、メイド服を着た店員がシルバートレイに出来立ての料理を乗せ、老人のテーブルに向かうところだった。出来立ての料理からは湯気が上がっており、いかにもおいそうに見えた。
しかし、空腹状態の僕が見ている湯気は、それこそ幻覚なのだろう。本来であれば湯気など見える距離ではない。あまりにも料理がおいしそうに思えて頭がクラクラしてきた。
その時だった。静かな空間に「ぐーーー!!」っと僕のおなかが盛大に鳴り響いたのだ。
メイド服を着た店員は、あと数メートルでテーブルに着きそうであったが、その音を聞いたとたん、老人と顔を合わせて僕の方を見た。完全に位置がバレてしまているが、間一髪で柱の陰に隠れた。しかし、今度ばかりは誤魔化せないと悟り、生唾を「ごっくん。」と飲んだ。
誰かいるのかね?と老人はこちらに声をかける。やはり、もう無理なのだと腹をくくるしかなかった。
「はい。えーっと。僕は、なぜか起きたらここにいまして、怪しいものではありませんが、えーっと・・・。」僕は下を向きモジモジしながらボソボソと言った。
「君か。おなかが空いてるんだね?こっちへおいで、なーに、取って食おうっていうんじゃない、何か食べなさい。私がごちそうしてあげようじゃないか。」と老人は偉そうに僕を手招きして呼ぶ。
本当は怖かったけれども、食欲の方が勝っていることは僕の体が証明済みだ。先ほどとは正反対に「はい、今行きます!」と威勢のいい声で返事をすると、老人は少し驚きながらも笑ってくれた。しかし、店員はくすりともない。今まで僕が警戒していたのは老人に対してで、店員ではなかったが、相手を間違えていたのかと思った。
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