お客様は神様です。2

お客様は神様です。

しかし変だ。幻など本当にあるのだろうか。しばらく綺麗でもないくすんだ天井を見上げながら考えていると、「チーン!」という音が聞こえた。

僕は、意味の分からない状況の中で混乱していたが十分に考える事ができるほどあたりは静まり返っている事に気が付いた。

何となく、この世界は僕のもので、僕しか見えていない幻のように感じていたが、その「チーン!」という音が現実感と恐怖心を僕の思考に追加させる。

恐る恐るだが僕は体を床に置いたまま、首だけを動かし、チーンとなった先を見る。すると、そこにはこれまた古いエレベーターがあり、まさにその扉が開こうとしているところだった。

僕は今まで停止していた体が嘘のように、まるでネズミを捕る猫よりも早く柱に隠れた。いや、この場合は僕がネズミで何かが猫か。

心臓は自分の耳からも聞こえるほどバクバクしていた。目もはっきりと開く。やはりこれは夢ではない事だけはわかった。

しかし、開くエレベーターの隙間をみると、不思議なことに誰も降りてこない。

もちろん、エレベーターの付近にも誰の影もなく、僕の心臓は少しあっけにとられ違和感だけが無残に残る。

冷静になり考えると、無人のエレベーターがこの階に着くという事は、誰かがこの階から移動する目的で外からボタンを押したか、誰かが内側からこの階のボタンを押すことしか考えられなく、違和感の理由が分かって少しほっとしたが、ほっとする事ではないことに気が付き、違和感が増す結果になってしまった。

頭にクエスチョンが付いたままであったが、その原因がわからないままに安全であると決めるには根拠が乏しい。

しばらく、息を整えて、心臓には黙ってもらうことにした。

すると「コツコツ」と、僕の鼓膜を動かす最低限で小さな音がした。

「コツコツコツ・・・」

先ほどまでは僕の心臓が騒がしすぎて聞こえなかったのか、確かに「コツコツ」となっているのだ。

再び、僕は柱に隠れ息をころした。さすがに心臓の音を消すことは出来ないが、最後の悪あがきとして目を閉じて祈った。「神様、助けて。」と。

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