老人の事などお構いなしに、僕はパスタに夢中だった。これが、かつ丼ならガツガツと食らいつくことができるし、多少行儀が悪いかもしれないが許されるだろう。しかし、パスタはガツガツ食べるわけにはいかない。冷静を装い、丁寧にそして素早くフォークを回して口にほおばる。少しでも気とパスタを緩めればナポリタンのソースがシャツを汚してしまうだろう。それだけは避けたい。なんとしても。
多少、お腹が膨れてきて、一呼吸置く。少しパスタがのどに詰まりそうになっているので水を飲んだ。「ゴク、ゴク、ゴク、ぷはぁー。」ここまでがワンセットで食べた気がする。そして少し冷静になり老人を見た。
「お前さん、よっぽどお腹が空いていたのじゃのう。よくそんなに早く食べられるもんじゃ。驚いたぞ。」と老人は僕の食べる勢いとスピードを目の当たりにして呆気に取られていた。
これでも少しは気を使って食べていたつもりだったが、もっと早く食べるところを見せればどのくらい驚くのか試してみたくなったが辞めた。そんなことをしても何にもならないし、ちゃんと味わって食べたほうがよっぽどいいに決まっている。
僕のお腹も少し落ち着いてきたので、サラダとカツにも手を出し始めた。そして老人に思い切って気になることを尋ねてみた。
「あの、おじいさん?ですよね?、えーと非常に失礼ではありますが、あなたは一体何者ですか?」勢いというものがあったにせよ、非常に聞きにくい事をズバッと聞いてみて、後で怖くなった。パスタを食べて少し火照っていた体が通常に感じるくらいに体温が下がった気がする。
「ん、わしか、わしはなぁ・・・。」と、老人が話し始めた途端にウエイトレスがほぼダッシュに近いスピードで接近してきた。
「お客様は神様です。」と息も切らさずに言い切ると、そそくさと厨房の方に戻っていく。表情も決してにこやかではない。通常状態の体温から一気に寒気がした。
「か、み、さま、ですか。」僕は恐る恐る厨房の方をみながら、到底納得できない言葉を発した。
「ほほほ。そうじゃ。皆はワシのことをそう呼んどるからきっとそうなのじゃ。」と老人は照れくさそうにひげをさすりながらそう言った。
僕は半信半疑、いやゼロ信全疑であったがこの場は話を合わせることにした。そういう雰囲気であった。
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