老人は、メイド服を着た店員に何かを注文していたが、声が小さくてよく聞こえなかった。
注文を受けた店員はそそくさと厨房へと戻っていったが、僕はまだ動けないでいた。
僕は手と膝を床につけた四つん這い状態で顔を少しだけ柱から出し聞き耳を立てている。
しばらく沈黙は続き、楽な姿勢だと思っていたがさすがに同じ姿勢でいると疲れてくる。
僕は、右手を前方に伸ばし、左足を後方に伸ばし、体の疲れをとる。次は左手と右足の順番で、ゆっくりだがピンと伸ばしきる直前にやらかしてしまった。
「ガタン!」なんと!右足をテーブルにぶつけてしまったのだ。
そんなに大きな音ではないが、その音でも十分に聞こえてしまうほど辺りは静かだったのだ。
「ん~?、何か音がした気がするなぁ。」やはり老人は気が付いたようだった。
ドクン!ドクン!と、僕の鼓動は、またもや早く強いものに変わってしまった。
このままでは僕の存在がバレてしまう。非常にマズイだろう。
僕に与えられた選択肢は少ないが、その中の2つで迷う。
一つ目は、そのまま動かずに静寂をまもり、やり過ごす。
二つ目は、「ごめんなさい」や「あはははは~、バレましたねぇ~」などと言って自ら姿を表す。
うーん。と2秒くらい悩んで二つ目の案で行こうと意気込みかけたが、やはりもう少し悪あがきをしてみようと、思いつくままに3案目を実行した。
「にゃ~ん。」
僕は思い切って猫になった。もちろん、体は柱に隠れたままで猫の鳴き真似を一生懸命にしてみた。
思いのほか、いい出来だったのではないだろうか。一瞬、猫とネズミで迷ったが、ネズミはチューと鳴かない事に気が付いたおかげで何とか踏みとどまった。
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