しばらく老人の幸せな時間と同時に僕の苦痛の時間がつづいていた。
小さな老人は一口一口が少ない。料理も老人にとってみれば大食い自慢たちが挑んでいる”食べきればタダ”になる量に等しいだろう。
何口も食べているのに一向に減っていないような錯覚すらある。それなのに老人の表情は最初の一口から変わらすに最高に満足した顔をしている。いつしか僕の涙はひっこみ、その感情は老人を感心するものに変わっていった。
僕はたまらずに「そんなにおいしいですか?」と聞いた。すると老人は「うまいのう。おぬしの料理はまだかのう。もうそろそろだとは思うがのう。」と食べる手を止めずに言っているが、感情が料理に持っていかれているのか、半分くらい流された感じがした。
そうこうして気づかぬうちに、メイド服を着た店員がテーブルの横に立っていることに気づいた。一瞬ゾッとしたが料理が運ばれて来た事に気を取られてしまい、その違和感はスルーしてしまった。
やっと念願の食事にありつける。そう思うとこらえていた体も反応し始めて、雄たけびの様にお腹がぐーーっと鳴った。
「よっぽど空腹なようじゃな。さあ、お食べなさい。あまり急いで詰まらせないようにな。」と老人が言うが、僕の全てが既にスタンバイを終えており、そう言われるやいなや僕の右手はフォークをスパゲティーに刺した。
くるくると巻くのは時間のロスになるので、正直面倒ではあったが、ごちそうになることもあるし、みっともないことは出来ない。
僅かな時間を我慢する代わりに、くるくるをイメージよりも一巻き二巻き分多く巻いて、一口が大きくなるようにした。さて、いただくことにするか。心の中で「神様ありがとう。」と思うのと同時に。「ありがとうございます。いただきます。」と老人に感謝し一口目をほおばった。
「はい。ゆっくりお食べ。詰まらせないようにな。」と老人はにこやかに言ったが、僕の頭の中は、お花畑の中で踊り、はしゃぎまわっている映像が流れるほどの至福の時を迎えていた。
コメント