お客様は神様です。7

お客様は神様です。

手招きして呼ぶ小さな老人の元へ僕は急いだ。こんなヘコヘコしている所は、誰にも見られたくない。しかし、ここは現実なのか幻想なのかわからない空間で、僕の知る限りでは、ここにいるのは小さな老人と、メイド服を着た店員と、おそらく厨房で料理を作っている人、それと僕の4名だ。知っている人はいないだろうし問題ない。僕のプライドなど簡単なものだ。

しかし、僕の知人がいるとなると話は別だ。こんな姿を見せるわけにはいかない。とくに、えーっと、えーっと・・・?誰だっけ???と老人が座っている席の目の前で顔面蒼白状態になった。

老人がきょとんとした顔でこちらを見ている。「どうしたんじゃい?さっきまで威勢がよかったのに?顔が真っ青じゃ。」心配そうでもあるが、どこか冷静でもあり、なんともつかめない表情であったが、僕は老人の顔など目に入らないくらいに目の前も頭の中も真っ白になっていた。

「ぼ、ぼく、記憶がないんです。今日、ここで起きてからの記憶はありますが、昨日は確か部屋で寝て、ゲームをして、宿題は簡単なところだけやって、お風呂に入って寝たはずなのに、記憶に自信が持てません。そもそも僕の部屋の間取りだって思い出せませんし、僕の家の住所も、親の顔も友達の名前ですら思い出せません。な、何かご存じないでしょうか???」と藁にもすがる思いで老人に助けを求める。もはや老人しか頼れる人はいない。そもそも人であるのかも疑わしいが、この際、どうでもいいと思えるほど僕は切羽詰まっていた。

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